family photo – NOAH+NORAH

family photo

先日ウジェーヌ・アジェの展示を見に東京都写真美術館に行ってきたのですが、同時に開催されていた『無垢と写真の経験』展内の金山貴宏さんの写真に強く引き込まれるものがありました。

以下抜粋
“その日は突然やって来た。その日以降、私が知るそれまでの母は私の記憶の中に永遠に閉じ込められることになる。

両親の離婚後、私は母、祖母、2人のおばの4人の女性に育てられた。
そして1991年、私が20歳になってまもなく母は統合失調症(精神分裂病)と診断された。発症後の母は言動も行動も昔の母とはまったく違う別人のようで、家族と交わす会話も意味不明で支離滅裂だった。学生時代から仲良くしてきた母の友人らは、彼女の言動や行動が以前とは違うと感じると猛スピードで去っていった。まるで彼女がそれまで歩んできた人生が一度に抹消されたかのように…。母が過去に存在した痕跡は、家族の記憶の中に漂う母と発症以前に撮られた写真のみとなり、母の主な居場所は実家ではなく精神病院へと変わった。

祖母の死後、私はそれまで撮影することがなかった家族の写真を撮リ始めた。それらの写真のほとんどは、私がアメリカから日本に里帰りするたびに母と2人のおば、犬のケリーと共に旅行した際に撮ったものである。遠出を好まなかった祖母の存在は一家そろって旅行することを困難にさせたため、2001年から始まった家族旅行は欠如していた思い出を補う(つぎ当てる)かけがえのない経験となっている。旅行先はほぼ毎年同じで、祖母を含む家族全員で唯一来たことがある箱根や日光、福島、京都など、母とおばが若い頃から行きたかった場所が多い。

家族は自分の記憶の中にあるまま永遠に不変だ、と道理なく思っていた私にとって、祖母の死は過ぎ去っていった時間を鋭く意識させる出来事となった。これらの写真は、過去と現在の時間の往還を実現させてくれる大切な乗り物であると同時に、過去と変わりゆく現実に向き合うための試みでもある。”